11時20分と一枚のチケット

チケット

前回オペラのチケットを譲って頂いた方からまた連絡があった。『今回は一緒に行きませんか?』『是非!』の二言で今日行く事が決まり、朝11時20分少し前に正面エントランスに到着。しかし劇場に着くも誰もいない、、、おかしいな、、、係員に聞くともう始まっているとの事。待ち合わせ時間を間違えたのか?!ふと過去の過ちを思い出した。実は以前にもチケットを頂いた事があるのだが、その時はきれいに無くしてしまい、大変失礼な事をしてしまったのである。それにも関わらずまた誘って頂いたのに遅刻はあり得ない、、、信用丸つぶれ&自分のどうしようもなさに落ち込みながら、休み時間になり外に出てくるのをエントランスのベンチでじっと待ち続けた。一時間半経過した頃ついに休み時間に!!!しかしその人は出てこない。まてどまてど見知らぬ外人ばかり、そして休み時間の終わりを告げる鐘が鳴り、人々は劇場に消えて行った。係員に『次の休み時間は何時ですか?』と聞くと『もう無いよ?ずっと居るけれどだれか待っているの?』と言われ、事情を説明した。すると彼はポケットに手を入れ、何かを取り出して言った『観たいかい?観て来なさい』と彼はくしゃくしゃのチケットを差し出した。ひとつうなずき入り口へ向かった、しかし入り口で止められてしまった、朝からずっと居たのを怪しんでいたのだろう、、、その時遠くから彼は言った『彼にあげたんだ。入れて上げてくれ!』『ドアが閉まる前に劇場に入るんだよ』彼の震えた声が聞こえた。
無事に劇場に入り知人を捜すが見つからない、仕方なく座席へ急いだその時、最後の鐘が鳴った。落ち着きの無いままにオペラは始まった。席はオーケストラのセンターシート、回りの席には誰もいない。自然と歌にのめり込んでいた。最後のシーン、彼の優しさか歌の素晴らしさか解らないが右のほっぺたに冷たいものを感じた。幕が下りた後一生懸命知人を捜したが、見つけられなかった、しかし緑色のジャケットを着た老体の彼を見つけた。彼はポンと肩を叩いて一言『楽しんだかい?楽しんでくれればいいんだ』と言って仕事へ戻って行ってしまった。彼を忘れる事は出来ないだろう。そしてまた劇場へ足を運びたくなった。
ちなみに今日の演目はベートーベンの『フィデリオ』のドレスリハーサルでした。